【読書録】USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門/森岡 毅
「USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門」の読書録です。
書籍紹介
マーケティングを知らない人を対象に、マーケティングの本質と思考法を解説した書籍。マーケティングの基本となる考え方や組み立て方・使い方を、著者自身の実戦経験を交えて体系的に説明している。本書で示されるマーケティング思考は、ビジネス的な新たな視点を得ることができ、自身や企業の理解を深め、これからどのように進むべきか・正しい方向に進んでいるのかを分析して判断するための一つの武器として活用できる。
本書での学び
- 目的(Objective)・目標(Who)・戦略(What)・戦術(How)の階層性と関連性が理解できた
- 4Sや5C分析、4Pの使い方や考え方の基本を学ぶことができた
- 自分の状況や持っているものを整理して、価値を提供する等、前向きに活かすためのヒントを得た
- 相手の視点から物を見るための一つの考え方を学べた
私的まとめ
まずは自分を知ること
「己を知り~」というのはよく言われるが、己について具体的にどう考えたらよいかは理解できていなかった。
本書を読み、この点の考え方のポイントとしては下記のようになると考えている。
- 自分(自社)の置かれた状況を周りの仕組みを含めて理解する
- 自分(自社)でできることや、やってきたこと、使えるものを理解する
- やり方や見方を変えることで活きるものはないか探す
- 自分(自社)の与えている価値を理解する
- 自分の好きなことや楽しいこと(価値観)を理解する
- 上記を前向きな視点でとらえる
本書では、マーケティングフレームワークとして、戦況分析⇒目的⇒WHO⇒WHAT⇒HOWの順で考える方法が紹介されており、前述の各ポイントは「戦況分析」の部分と理解している。
今自分がいる環境と流れをとらえて味方につけることは、どの場所でどうするのが特性を活かしやすいかを考える基盤となり、自分の目的や戦略、戦術の指針となる。
戦況分析を本気でやる理由は、市場構造に逆らって確実に失敗する「地雷」を避けるためです。そしてできればその市場構造を自分の味方につけられるような戦略がないかを考えるためです。
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.市場構造に逆らうことも不可能ではありませんが、膨大な経営資源が必要になるのです。
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.
また、この戦況分析の一般的な視点として5C分析が紹介されている。
- Company(自社の理解)
- 自社の全体戦略の理解:全体意思。方針に反した戦略は非効率。
- 自社で使用できる経営資源を可能な限り多く把握:ヒト・モノ・カネ・情報・時間・知的財産。
- 自社の能力や特徴を把握:何が得意で不得意か。過去の取り組みや実績と、その際に機能した特徴。
- Consumer(消費者の理解)
- Customer(中間顧客の理解)
- 自社と消費者の中間にいる存在。流通などの取引先のこと。競合でもあり、パートナーでもある。
- 戦略(方針や関心事)の理解と強み・弱みの理解が重要(基本的に自社の理解と同様)。
- 束になったときの業界の傾向と不文律。
- Competitor(競合他社の理解)
- 広義の競合他社まで理解する。
- 自ブランドが消費者に提供している価値の理解とその競合。
- Community(ビジネスと地域社会の理解)
- 社会がビジネスに与える外部要因(法律、世論、税率、景気、為替レートなど)のこと。
- 多大な影響を与えるCommunity要素の明確化と変化の兆しをモニターし、吉凶両方の選択肢を準備すること。
目的はこの戦況分析を行いつつ、シンプルで魅力的で、ギリギリ届く高さのものが良いと述べられている。
目的設定は戦況分析の充実度により設定のしやすさが変わるのではなかろうか。
戦略の核は選択と集中
戦略の定義と必要性について、本書ではビジネス的な観点で下記のように定義している。
戦略の定義
戦略とは、目的を達成するために資源(リソース)を配分する「選択」のこと。
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.
戦略が必要な理由
- 達成すべき目的があるから。
- 資源は常に不足しているから。
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.
何かを成し遂げようとするときに、資源は常に不足している。
だから、今自分が持ちうるのものをどのように配分し、何をして何をしないかを明確にして、これからの進み方を決めることが「戦略」であると理解した。
また、良い戦略か否かを判断する視点として、4Sチェックが紹介されている。
- Selective(選択的か)
やることとやらないことを明確に区別できているか。 - Sufficient(十分か)
投入する経営資源が勝利の為に十分か。Selectiveとの関連が強く、Sufficientでなければ、よりSelectiveにしてSufficientになるようにする必要がある。 - Sustainable(継続可能か)
短期ではなく中長期的に維持継続できるか。問題となるのは競合の模倣による追従や経営資源の枯渇など。 - Synchronized(自社の特徴との整合性)
自社の特徴(強み・弱み・経営資源の特徴)を有利に活用できているか。特徴上の強みが相手の特徴上の弱みをつける戦略は非常に勝利確率が高くなる。
この観点は個人レベルでも活用しやすい考え方であると思う。
将来を見据えて、これからどのように何をしていくのが良いのかを考えるときに、前述の戦況分析で自身の持ちうるものや状況を整理して目的を立て、限られた資源(時間やお金が多いだろうか)の配分を決めることができれば、着実に前に進むことができるのではないだろうか。
また、4Sの観点は自身の目的や戦略が現実的かという評価において非常に有用である。
技術や能力を誰に対して使うか
技術や能力が高くても、顧客や消費者にとって価値のある使い方でなければビジネスとしては成功できない。
価値のあるもの=顧客や消費者にとって喜ばれるものであるが、まず「誰に(WHO)」対してのものなのかを決めることが重要になる。
本書では、戦略ターゲットとコアターゲットに分類し、以下のように定義している。
戦略ターゲット:ブランドがマーケティング予算を投下する最も大きなくくり
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.コアターゲット:戦略ターゲットの中で、更にマーケティング予算を集中投下するターゲット消費者のくくり
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.
ここも「戦略」であり、「選択と集中」をして資源が足りるように配分しようとしている。
また、ニーズや購買欲・確率は大きな偏りがあるため、狙った誰かにとって最高のものにすることが効率的であり、少ない資源でより効果が上げやすくなる(ただし、ターゲットが小さくなりすぎないようにする必要があると述べられている)。
そのため、本書の序章でも述べられているような、内部的な配慮が含まれた妥協案や落としどころは、ほとんどが消費者最適でなくなる。
つまり、「戦略」がなくなってしまうのである。
コアターゲットを見つける切り口
- 世帯浸透率(Penetration)を伸ばせるグループはないか?:自ブランドの浸透率を増やせる余白を探す。
- SOR(Share of Requirements)を伸ばせないか?:そのカテゴリーの消費量のシェアを伸ばす。
- 1回当たりの消費量(Consumption)を伸ばせるグループはないか?
- 既存使用者の使用商品の種類数(SKU数)を伸ばせるグループはないか?
- 購入サイクルを短くできる理由が作れないか?
- 競合ブランド使用者でブランド変更しそうなグループはないか?:※他の5つより優先度低(リソースが多くかかるため)
能力や技術をどう使うか:根源的な価値と商品
WHAT:どんな「価値」を提供するのか
WHAT(何を売るのか)は、消費者がそのブランドを選ぶ根源的な理由を戦略的に選択することであると述べられている。
ここでのポイントは、この観点でのWHATはモノやサービスそのものではないことである。 消費者は何を得たいのか等、もう一歩先にある消費者にとっての「価値」を考えて選択することで、その価値を提供するために、どんなモノやサービスを作ればよいのかというHOWにつながる。
消費者が欲しいのはアトラクションではないのです。消費者が欲しているのは、そのアトラクションを体験したときに巻き起こる「感情」です。
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.USJの場合は、アトラクションやイベントではなく「感情」こそがWHAT、アトラクションはその感情をデリバーする装置であり、それらの製品(モノ)はHOWに属します。
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.
ブランド・エクイティーとポジショニング
- ブランド・エクイティー:消費者がそのブランドについて想起する全ての要素
- ポジショニング(Positioning):消費者の頭の中での競合との相対的な位置づけ
消費者の強い購買決定理由となるブランド・エクイティーに最も近い場所にポジショニングしているブランドが有利となる。
そのカテゴリーにおいて、消費者が特に重要だと感じている価値観の判断軸をブランド・エクイティーとして単独で所持できるのがベスト。できるだけ近い所にポジショニングできればベター。
この軸は消費者が購入する根源的な理由を深く理解すればするほど見えてくる。
また、ポジショニングは相対的であるため、相手が動いて自分のポジショニングが動くこともあり、自分のポジショニングを動かして相手のポジショニングを動かすこともできる。
既存の軸を奪ったり、消費者の頭の中に新たな価値観を立てて競争の軸を変えるなど、様々なテクニックがある。
HOW:どうやって消費者に「価値」を届けるのか
HOWはWHATを届けるための仕掛け
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.
HOWは「戦術」にあたり、パッケージや製品そのもの、WEBページ、CM、価格、流通などである。
消費者の目に触れるブランドに関するほぼすべての要素はHOWである場合が多い。 そのため、ブランド・エクイティーになりやすく、HOWが弱いとWHATが消費者に届かない。
本書ではHOWを整理したものとして「4P(マーケティング・ミックス)」が紹介されている。
4P(マーケティング・ミックス)
- 製品(Product):顧客に提供するモノを決めること。主なスペック、ネーミング、形状や形体、サイジング、パッケージなど、消費者がより効果的にWHATを体感する仕掛けを含む。マーケティング主導の会社では、この部分をマーケティング部署が決定し技術部署に発注する。
- 価格(Price):目指すポジショニングに適した価格設定とその実現。需要、コスト、流通マージンなど考慮して市場価格を望む方向に導く。
- 流通(Place):顧客への効率的・効果的な販売アクセスを決める。配荷率と流通コストを踏まえて、製品が消費者に届くまでの流通経路を決定する。卸売業と小売業を活用するのか、自社販売するのかなど。
- 販促(Promotion):顧客への効率的・効果的な情報伝達方法の決定とその実現。メディアの選択や運用方法(広告、PR、キャンペーン)など、明確化したターゲットに対しての認知形成と購買意欲醸成に関するコミュニケーションを統合して具体化する。
核は相手の視点の理解
著者は苦手だったHOWを克服した観点として、以下のように述べている。
自分のセンスで判断するのではなく、深く理解した消費者の視点からHOWを判断すればよい
森岡 毅.USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門.株式会社KADOKAWA.
これは普段の仕事や日常でも同様ではないだろうか。
著者は消費者視点の理解の為に、関連コンテンツを実際に体験したり、テーマパーク内を歩いたりなど、非常に多くの時間を研究に費やしていると述べている。
頭だけで考えるよりも、実際に経験することが効果的であることは明白である。
ただ実体験できることは難しいケースは多い。
その場合は、相手の話や背景など、取れる情報から相手の視点を理解していけばよい。
最後に
戦況分析で自分と環境の特性を掴み、より有利となるよう戦う(特性が活きる)場所を選択する。
それを踏まえて目的を立て、持ちうるものをどのように配分するかを決める。
そして、特性が響くターゲットを選び、そのターゲットの心理を理解し、ターゲットにとって届けたい価値を決める。
最後に、どのようにその価値を届けるかを考える―――。
本書はまず自分を知って相手を知るということについて、どういうことなのか、どのようにしたらよいのか、どのように役立つかを明快に説明してくれている。
また、自己への深い理解がどれほど重要かも示してくれている。
自分にとって適切でない目的の設定は、戦況分析で自分と環境を十分に把握することで回避できる。
相手にとってどのように役に立てるのかについても、まずは自分の使えるものや有利な状況を分かったうえでなければ不利なものとなる。
また、相手の状況把握や、計画・提案などの判断にも一つの視点として応用できる。
本書で示される考え方は、自分自身にも仕事にも汎用性があるものであると思う。
次は自分の持ちうるものについて、より理解を深められるような書籍を読みたい。
*1:消費者自身が気づいていないあるいは直視したくない隠された真実。意図的に突くと心を大きく動かせる。